未払い賃金や未払い残業代(以下、未払い残業代等)の請求を行う際、最も重要なのは「証拠」です。残業代等の未払いを主張しても、その事実を裏付ける証拠がなければ、請求が認められない可能性が高くなります。
この記事では、未払い残業代の請求に必要な証拠の種類やその重要性について解説します。
1. 未払い残業代等請求を行う上での証拠の重要性
未払い残業代等の請求は、労働者が自分の労働時間や賃金の支払い状況を証明しなければなりません。
裁判において、とある事実があった事(今回であれば残業代が支払われていない残業等)を立証するする必要があり(立証責任)、この「立証責任」は有利となる側で証明しなければならないと言うのが原則的なルールです。
企業側が残業代の支払いを拒否する場合、究極的には「残業の事実は無い」の一言で終わるのに対し、請求する側は「何年何月何日に何時間残業し、それに対し何年何月何日に○○円しか支払われていない」と言った事実を事細かに証明していく必要があります。残業代請求の際に証拠が不十分だと、たとえ正当な権利を主張しても、支払いが認められない場合があります。そのため、しっかりと証拠を確保することが、未払い残業代請求において非常に重要な要素です。
2. 請求に必要な証拠の種類
未払い残業代を請求するために必要な証拠はいくつかの種類があります。以下に、主な証拠とその活用方法について説明します。
(1) タイムカードや出退勤記録
最も有力な証拠として挙げられるのが、タイムカードや出退勤記録です。これは実際に何時に出勤し、何時に退勤したかを正確に示すもので、残業時間の証拠として非常に重要です。
- タイムカード
労働者が自身で出勤・退勤時に打刻するもので、正確な勤務時間を記録できます。 - システムのログや勤怠管理システム
電子的に出勤・退勤時間が記録されるものは有効な証拠です。
タイムカード等が無い会社であっても、自身の手帳に直筆で日々の出退勤時間を記録しておくことや、X(旧Twitter)で毎日出退勤のタイミングで呟く事で時間が認定されたケースがあります。また、もし会社がタイムカードを不正に操作していた場合、その事実も記録として残しておくことが重要です。私の経験上、出退勤時間は15分未満を切り上げまたは切り下げ等の処理を行う会社が存在しており、この時間帯も働いていたのであれば、未払い賃金または未払い残業代の請求の対象となり得ます。
(2) 給与明細や賃金台帳
給与明細や賃金台帳も、未払い残業代を証明するための重要な書類です。給与明細には、賃金や残業代が記載されているため、実際にどれだけの賃金が支払われたかを確認できます。
- 残業代が支払われていない、もしくは固定残業代のみが支払われている場合、それを証明するために給与明細を詳細に確認しましょう。
- 賃金台帳は会社が管理しており、労働者の立場として会社に閲覧を要求することもできますが、会社がその要求に従う義務はありません。
(3) メールやチャット、業務指示書
業務指示に関するメールやチャットの履歴も、残業を行った証拠として有効です。たとえば、上司からの業務指示が深夜に行われている場合、それが残業の証拠になります。直近で言えば兵庫県知事の職員に対する夜中のチャット等がその一例でしょうか。
- 「何時に業務が開始されたか」「いつまでにその業務が終了したか」を証明できるメールやチャットのやり取りは、残業時間を示す証拠になりえます。
- 業務日報やタスク管理システムの履歴も、具体的な業務内容とその時間が記録されている場合、証拠として使えます。
- Lineで退勤を報告する必要があった職場での未払い残業代請求では、そのLineのやりとりがあった時間を退勤時間とみなした例もあります。
- PCの電源ON/OFFのログを出退勤時間とみなした例もあります。
(4) 会社の就業規則や雇用契約書
就業規則や雇用契約書は、労働時間や賃金の計算方法に関するルールが定められています。これらを確認することで、所定労働時間を超えて働いていることを証明できます。また固定残業代制が導入されている場合、その詳細を確認することも重要です。もし適切な表示が行われていない場合は、その固定残業代自体を否定することができます。
(5) 証言や同僚の証拠
証拠として、同僚や上司の証言も有力です。同じ時間帯に働いていた同僚が、あなたの残業を証言してくれる場合、それが有効なサポート証拠となります。また、他の労働者が同様の未払い残業代問題を抱えている場合、その情報を共有することで、証拠を補強することができます。
3. 証拠を集める際の注意点
証拠を収集する際には、いくつかの重要な注意点があります。
- 証拠は必ず適法に取得すること
不法に取得した証拠は、裁判などで使用できない場合があります。例えば、許可なく会社の内部システムに不正アクセスして情報を持ち出した場合、それは適法な証拠とは認められない可能性があるばかりか、不正アクセス禁止法等により処罰を受ける可能性があります。 - 証拠は保存しておくこと
タイムカードや出勤記録、給与明細などは、すぐに破棄せずに保存しておきましょう。特に、残業代の未払いに気づいた段階から証拠を集め始めると、将来的な請求に役立ちます。 - 記録は詳細に残すこと
証拠が不足していると感じた場合でも、自分で詳細な記録を残すことが有効です。たとえば、残業した時間やその理由をメモしておくことが、後々の請求に役立つことがあります(上記メモやXの例)。
4. 未払い残業代等請求に向けて行動を起こす際のステップ
証拠が集まったら、未払い残業代を請求するために、具体的な行動を起こす準備をしましょう。方法としてはいくつか考えられますが、大きく分けて以下の3種類であると思います。
- まずは会社と話し合う
証拠を持って、上司や人事部に未払い残業代の支払いを求めることが第一歩です。 - 労働基準監督署に相談する
もし会社が対応しない場合、労働基準監督署に相談することで解決を図ることができます。証拠を提出し、監督署が調査を行うことで、問題解決の手助けをしてくれます。ただし労働基準監督署は法律に基づいて判断するため、必ずしも労働者の味方であるとか限りません。 - 法的手段を検討する
それでも解決しない場合は、ADR(裁判外紛争解決手続)や労働審判・訴訟などの法的手段に進むことが考えられます。この場合、弁護士など専門家の助けを借りることもできます。
5. まとめ
未払い残業代等の請求は、しっかりとした証拠があれば勝てる可能性が大いにあります。しかし証拠がなければ、どれだけ正当な主張でも認められない場合があります。自身の労働時間や賃金に関する記録をしっかりと保存し、いざという時に備えておくことが大切です。もし未払い残業代に関する問題を感じた場合は、早めに行動し、自分の権利を守りましょう。
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